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2019年11月1日更新

最近感激したこと

~洋服の直しはどんなことでも出来ます!の驚き~

 


顔右余白

 

古い洋服を復活させている。断捨離に相反するようでいて、むしろその精神が浸透してきた結果だと思っている。5年ほど前から物を片付け始めているうちに、自分にとって必要でないものが分かるようになってきた。いつか着る、いつか役に立つの、いつかは来ないのもほぼ正解だ。そう言いながら、「後であれがあったら」と思ったこともあるが、その時に「どうしても必要か」と自問すると、そうでもないことに気づく。だから後悔はない。これを繰り返しながら片付けていっている。今は、引き出しや棚の中に“すき間”ができることに喜びを感じている。

古い洋服は、ほとんど捨てたが、一部残していたものを最近、マジックミシンで大がかりな直しをしてもらっている。太って着られなくなったので捨てるかどうか迷っていた。

通常、既製服は立った人に合わせた形で仕上がっているので、座ると上着の前が余る。車いすを漕ぐと上腕や肩甲骨回りに筋肉が発達するので背中が張る。パンツも同様、前は持ち上がり胃に食い込むのに、後ろは下がって背中が見えてしまうほど。それらを理解してもらうのは、相手にどれだけ想像力があるのかと、またユーザーの服に興味を持ってくれるかに寄る。

知り合いから赤坂にあるマジックミシンがいいよと勧められ、試しにジャケットを一つ出した。「洋服直しはどんなことでも出来ます!」という言葉にホンマかいな?と疑問を持っていたが、「こんなこと有りですか?」と驚くほどの工夫の数々。私の場合、小さくなった服を大きくするのだから、布が無いことにはどうしようも無いと諦めていた。パツパツに張っている腕は、縫い代からは1センチほどしか出せない。そこで提案してくれたことは、ジャケットの前身ごろの裏側、見返しを切り取ること。それを腕の内側へ縦に足していく。無くなってしまったジャケットの裏の見返し生地は、別布で補正する。それでも足す布が無いと、ポケットの中の半分だけ表の生地が付いている、それを切り取る!また、全く違う似た布で同化させるか、皮など異色、異素材で違った味を出すなど、アイデアを提案してくれる。まるでジグゾーパズルのようだ。ついでに、古い雰囲気のデザインも新しいものへと変化させる。一緒にあれこれ考える。昔、流行った肩幅の広いデザインを詰めて、襟も小さく今風にする。ボタン位置を変える。直す側の意欲と工夫が試される瞬間。直し以上の改造かもしれない。障害のある客は少数で圧倒的に一般の方々だ。以前に工夫したものを写真で残されている、その一部を見せてもらった。

ある年配女性が息子さんからもらって着ていたという男物のダウンコート。おしゃれ着というよりも丈夫そうなヤッケ!のよう。いつも着ていてアチコチ切れているところ、擦れているところ「よくぞ、ここまで着ましたね。もうお金をかけなくても十分でしょう。」と発しそうになる言葉を呑み込んで聞いていた。

かなりの布を取り換えて修復したヤッケを取りに来た女性は、きれいに仕上がった服を手にし、感激して泣いておられたという。

「亡くなった息子さんとの思い出があるのかしら」と、私がしんみりとつぶやくと、マジックミシン赤坂店の中澤さんは「いえ、息子さんはご存命よ。なぜそこまで思い入れがあるのかまでは、私たちは立ち入りません」と。また、別の方の例。

ギランバレー症候群で全身麻痺の男性のこと。声を出す訓練もされているが、ほぼ話さない。その方の日常着、Tシャツやパンツを着やすく直したら、ご本人がとても感激して、表情の無い顔に笑みが現れた。絞り出すような声でお礼を言われた、という。

自分の手によって誰かに喜びを提供できることは素敵だなと思った。直す側の工夫と相手のニーズが一致して、想像以上の出来映えに客が感激する。マジックミシンというよりマジックハンドだ。

洋服直しという仕事は地味なものだが、創意工夫をすることが求められ思考を鍛えられる。客の感激を期待して直しているわけではないし、大半は淡々とした作業の経過だけで終わる。洋服を売っている店舗に比べて内装の華やかさは無い。

しかし、洋服が息を吹き返すことを自分の手によって実現できる、その技術は誇れる仕事だと思う。

真新しい洋服を手に入れる楽しさもあるが、着られずに眠っていた洋服が蘇った時の驚き、試着して「やっぱり、この服は素敵だわ!」と開眼する経験を是非お試しあれ、と言いたい。

沢山直せば、それなりに費用もかかるが、技術の対価にすれば高くない。他のお直し屋さんは知らないが、マジックミシンはイオングループの傘下で規定の金額があるので安心だ。

「いつか着る」は永遠に来ないと思っていたが工夫次第で、いつかがやってきたのだ。必要な物しか身の周りに置かない精神は今も活かしているつもり。蘇りも断捨離だと思っている。

 

 

 

                                                             

“11月のおしゃべり’も更新しました。”

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