~ 前回のエッセイ ~


「ある朝の出来事。」


 

平日、朝のラッシュ時のこと。駅に行ったら中央線が止まっていた。いつ動くかの見通しはつかないとアナウンスされる。 大勢の人が地下鉄へ向かう、タクシー乗り場に走っていく。私もタクシーの長い列に並び根気よく待っていた。その時、一台の自転車がフラフラと私達の列に向かってくる・・・。まさか、当然止まるだろうと思っていた自転車が列に突っ込むと同時に倒れた。

女性の悲鳴が聞こえた。でも列の誰も怪我はしなったようだ。自転車のおじいさんはバッタリ倒れたままだ。

年配女性と若い男性が声をかけていた。私は落ちた荷物を拾って見ていたが動く気配がない。こういう場合、体を動かしていいものだろうか、救急車を呼ぶのがいいのか、と狼狽えていたところ、おじいさんがむっくりと自ら体を起こした。そしてバツの悪そうな表情をして地べたに座っている。

周囲の人が「大丈夫ですか?」と無意味な声をかける、ただ時間が経過するのみだ。その時に、どこからともなく女性が現れた。「専門家ですから、私に任せてください」と言うと慣れた手つきで、おじいさんの目を見つめて、「私のこの指は何本に見えますか」「右手を上げてみてください」と尋ね始めた。どうもおじいさんの具合に問題は無さそうだ。

私はその姿に魅了された。絶妙のタイミングで現れて、その時に一番必要なものを差しだしている。知らない者同士が、どこかでつながっている。私の日常は計らい通りにいかないことも多くイラついたりするが、ヨシ!もっと鷹揚になろうと誓った。

もっとも大事なことは人間の計らいを越えたところに隠れているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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