11月のおしゃべり

おしゃべり写真2 

「入院中のリハビリ」

~時代によってやる訓練が違います~

 


前回、私が入院していたころのリハビリを紹介するという話でした。35年前なんて、と思うかもしれませんが、けっこうワイルドなこともしていました。今ならしない、エスカレーターに独りで乗ることや、数段の階段を自力で前から下りる方法など。もちろん全員が必須なわけではありません。武蔵村山市にある国立病院機構村山医療センターに入院していました。

今月もおしゃべりの相手は、中野佐世子さんです。

 

教育ビデオをご紹介します。

~合理的配慮と職場のコミュニケーション~ 心のバリアフリーをめざして
(株)自己啓発協会 http://www.e-head.jp/
これは、「働く障害者に必要な配慮とは?職場でお互いがいい距離感でコミュニケーションを築くには?」を考えるきっかけになるような教材です。

今は入院期間が短くなりましたが、昔(30年前)は頚損なら2年間入院はざらでした。脊損の人でも1年はいたかもしれないわ。

 

 

そう、ひとみさんの本を初めて読んだとき、「ずいぶん長く入院するものなのね。」と思っていたのですが、どうして今は短くなったのですか?

短くても問題はないのですか?

 

 

今の短い入院期間というのは脊髄損傷者に限らず、国の指導です。

人によっては、十分にリハビリができずに退院ということもあります。褥瘡になると治すのに3か月ほどベッドで寝ているということもあり、ADLの確立ができずに帰宅となります。もちろん、通いのリハビリというものはありますが、可能なら受傷の早い段階で集中的にやるといいのですね。

 

 

リハビリが十分に出来ずに体の動きがままならない、可動域を増やすことや力をつけることを自力でしたり、退院した後に指導してくれる人を探すのは大変ですね。

 

 

はい、その通り。しかし昔よりはネットで情報を取りやすくなっていますので、リハビリを自力で施すことも有りですが、どの情報が有効か、自分に合っているのかの選択には、ある程度の知識が必要です。そのためには同じ障害の人との交流があった方が比べたり、アドバイスを受けやすい。そして、PTやトレーナーのレベルもどんどん上がっているので、良い出会いがあれば在宅でリハビリの続きはできます。あとは本人のやる気ですね。誰も代わりにリハビリしてくれないですから。

 

 

でも、ひとみさんが入院していたころのように、体のリハビリと同時に自分の心にじっくり向き合う時間を今は取れないということですね。突然身体が動かなくなることを受け入れるには、相当な時間が必要だと思います。受傷後に悶々ともしていられないというのは、厳しいですね。

 

 

そうですね。ゆっくり障害を受け入れつつリハビリを同時進行というわけにはいかないでしょうね、今は。サッサとリハビリしないと追い出されちゃいます。さて、話が脱線しましたが、前回のおしゃべりで、私の入院中にどんなリハビリをしていたかを話すということでした。  

 

 

たしか、鉄アレイを上げることのほかに、エスカレーターや階段を下りると書いていたような。想像するに怖そうですね。

 

 

そうです。昔はまだエレベーターが少なくてエスカレーターに乗れると便利でした。階段を上がるというのは現実的ではないけれどエスカレーターなら、ということね。駅でも、駅員さんが車いすの後ろを抑えてエスカレーターを上がっていたこともあったわ。今はしないです。車いす対応のエスカレーターは有りますが。私の言っているのは、普通のエスカレーターです。人がついていると意外に簡単です。上がるときは前向き、降りるときは後ろ向きに乗ります。後ろで抑える人の負荷はたいしてなくて、母でもやっていました。

それを病院のリハビリで教えていました。また、介助者無しの一人で乗る方法もね。握力の無い私にはけっこう怖かった。なぜなら、階段より、横につかまるベルトの方が早く進みます。だからちょっとずつ手をずらしていくの。今は一人では乗りません。

 

 

一人で乗るなんて…恐ろしいです。今はベビーカーもエスカレーターに乗せないよう指導されていますから、車いすでエスカレーターに乗ってはいけないですよね?

<以下、参考>

エスカレーターを含む昇降機事業の業界団体、一般社団法人・日本エレベーター協会では、ベビーカーでのエスカレーター利用について、死亡事故や深刻なけがにつながる恐れがあるとして禁止している。J-CASTヘルスケアの取材に答えた同団体担当者によると、「『禁止』としているが法規ではないので強制力はない」とするものの、ウェブサイトでは次のように注意喚起している。

「ベビーカーのエスカレーターへの乗り入れは非常に危険です。タイヤがうまく乗らずにバランスを崩しますと、重さを支えきれずに転倒する恐れがあります。お子様を危険な状況にさらすことになりますので、絶対にしないで下さい」

⇑ 国土交通省

JR東日本 車いす対応のエスカレーターやエスカル(車いす用階段昇降機)は係員が操作いたします。

 

 

ダメですね。危険だと言われます。その点ではエレベーターが増えましたので助かります。また、階段を介助者無しで、車いすで下りる訓練をやっていたわ。これもまだエレベーターが少ない時代の処世術ね。階段を下に見ながら下りるのは怖いわよ。これは何度か成功したけれど、訓練以外ではやる勇気がありません。3段くらいの階段を、前輪を上げて後輪だけで前向きで下りるの。バランスをとりながら、ね。

 

 

信じられない! 子どもならできるかもしれないけれど、体の大きい大人がやって事故など無かったのですか?そもそも、それは必要なことですか?

 

 

まず出来たら便利だってことね。今でも下りる人はいるわよ。バスケットをやっているような屈強で体幹のバランスのいいひとね。病院で自分の赤ちゃんを膝に乗せて、階段を下りた人がいましたね。スキー場で赤ちゃんを抱いて滑ってくる人を見るよりスリルがあります。

 

 

スキー場は行ったことがないので、よくわからないのですが…。

とにかく今はエレベーターが増えて良かったですね。

それでもエレベーターで困ることはありますか。

 

 

ベビーカーはもちろんOKですが、本音で言うと、一家総出で乗らないで欲しい。ベビーカーを押す人以外はエスカレーターを使ってほしいわね。車いす、ベビーカーが4台、5台も並んでいるのに、エレベーターを何台待たないといけないか、と気が遠くなります。それと1台のエレベーターにできるだけ、車イス、ベビーカーを詰めて乗りたいと思うの。たまに余裕があるのに車イス1台でエレベーターを閉めようとする人がいて、「もっと詰めてください」と言ってしまうときがあります。押しの強いおばちゃん!です。それとスーツケースを持っているからと外国人の団体がエレベーターで列になっているのを見ると、「エスカレーターに乗ってください」と言いたいわ。先日、新宿の駅員さんがエレベーターに乗っている高校生を「エスカレーターに乗り換えてください」と掻き出していたわね。新宿は車いすの数がとんでもなく多いので、駅員さんは堪らず言うのね。他でも指導して欲しいわ。なぜなら駅員さん(警備員さん)を差し置いて、私が横で出しゃばれないものよ。

 

 

そうですね。ホームのエレベーター前に、お年寄りやスーツケースを持った人、ベビーカー、車いすと大勢の方々が並んでいるのをよく目にします。エレベーター自体を大きくしないといけないのかもしれないですね。上野駅で大きなエレベーターに変える工事をしているホームがありました。時代に対応する、ということね。

 

 

羽田空港にあるエレベーターは開口部の両端が全部開くのね。これ乗り降りしやすいわね。人にぶつからないし、一気に乗り降りができちゃう。階を押すパネルがついている柱が前ではなく横につけて、ドアの箱、横幅全開になるということです。

 

 

 

今度羽田に行ったら見てきますね。

リハビリの話に戻りましょう。他にはどんなことをしたのですか?

 

 

 

 

病院の近隣を回るの。商店街を通るのは楽しかったわ。人とすれ違う時の速度や相手との距離を体で覚えるのね。また道のデコボコや片流れ(道は平ではなく、水はけのために傾いています。)を漕ぐのはきついわね。でもみんなでワイワイ言いながら遠足のようでした。

あとは、年に一度、小金井公園を回るの。それと東京都の大会に出場するのよ、患者が総出です。現在のリハビリについては、またご報告します。

 

 

 

あなたが陸上で優勝した大会ね。確か村山病院は体育館があって、バスケットボールもやっていましたね。ひとみさんを紹介する番組で見ました。

 

 

はい、私は指の力が弱くスナップが利かないのと体幹のバランスが悪いので、ゴールにボールを入れるのは困難でした。楽しみは退院した人が夜、職場帰りにバスケットをしに来るの。それは私におおいなる希望を与えてくれたわ。まず、仕事を持つことが可能だと知ったこと。車の運転をしていることやスポーツを楽しんでいることね。その人たちから恋愛や結婚の話、仕事や人間関係の悩み、様々な困難を乗り越える方法を聞くことは、私にとっては外気を取り込む新鮮さでした。良いこと悪いことひっくるめて、外の世界で一喜一憂できる、当たり前の世間を体現している人を羨望のまなざしで見ていました。私にも可能だろうか、と想像しながら。

 

 

 

そういう時間や経験も本当に大切なのですね。

今は脊髄の手術をする病院はあちこちにあって、あなたが居たときのように全国から集まることは無いかもしれませんね。それに脊髄損傷の患者は30年前より、はるかに減ってきていますよね。車の安全性が上がったことも関係しているのでしょうか。

 

 

そうです。久しぶりに病院に行ったときに、その頃の看護師さんから声をかけられました。「ひとみちゃんが居た頃は賑やかで楽しかったわ。今は静かで、ちょっと寂しいくらい。」と。

 

 

いやぁ、病院は静かなのが普通ですけどね。 今は、病院の中に脊髄損傷者が自分一人しかいないという状態だと、横の情報が取り入れにくいということがありますか。

   

 

 

脊髄損傷者の会もありますので、そこで情報交換ができます。最近はコミュニティに入る人が減ってきていますね。どの会もそういう傾向です。そうするとネットで取るしかないということになります。情報が多いと選択の誤りもあります。パラリンピック開催により機運が高まりスポーツをする人が増えると仲間もできますね。

 

 

新たな自分の可能性をスポーツで発見できるかもしれません。また体を鍛えておいて、医学の発展(IPSなど)で歩ける可能性が出た時に十分に手術に耐えられる体でいるために体力づくりは大事ですね。それは障害のある人だけでなく私たちだってそうですよね。

寒くなってきました。どなた様もご自愛なさってください。